すくも配管

小規模な稲作で、稲からお米を収穫し穀物乾燥機で乾燥させた後、籾摺り機で脱稃・選別(トース)した時に排出される籾殻(すくも)が通る配管を伸ばしたいと考えた時のお話です。

籾摺り機で脱稃した後の籾殻は籾摺り機に備わっている送風装置で排出管から空気と共に排出されます。
これまでは籾摺り機から約3mほどの場所で籾殻を袋取りして畑作などに用いられていましたが、多くは田に戻し鋤き込んでいますので袋取りするメリットはあまりなく、人手不足も深刻化してきましたのでこの工程の改善が必要になりました。
袋取りを省略し稲刈り後の田に集積させれば、人手も労力も大幅に軽減できます。

調査

調べる必要があるのは配管の長さと籾摺り機の籾殻搬送能力です。
現場測量の結果、稲刈り後の田に集積するためには籾摺り機から約14m離れた場所まで軒下に配管する必要があることが分かりました。高低差や障害物もなく大部分が直線なので配管自体は問題なさそうです。
次に籾摺り機の性能ですが、仕様書上の籾殻搬送能力は直径約18cmの送塵管で材質が塩ビなら約10m、金属なら約12mまでで、予定している配管長に足りていません。
農機具屋さんには、籾摺り機の籾殻搬送能力は存外弱いので送塵機を付けて搬送距離を延ばさないと無理ですよ、と言われましたが、籾摺り機自体を大型化したり送塵機と呼ばれる搬送機械を別途調達するほどの営農規模ではないので、管径を小さくして流速を加速させ搬送距離を延ばす方法で考えることにしました。
配管の延長のみで対処できれば、必要最低限の予算で済みます。

配管径の計算

仕様上の到達距離は流量や流速、配管抵抗などを含んだ数値なので、単純に流速のみを評価して推測します。
流速の向上でどの程度到達距離が稼げるのかを正確に調べるには流量や流速はもちろん流体計算に必要となる粘度や抵抗、圧力などを細かく測定したり算出したりした上で検証する必要がありますが、手に負えません。
ですので、管長延伸による減衰は無視して単純に流速の上昇分だけ到達距離が延びるものとして考えます。

流速(V) = 流量(Q) ÷ 断面積(A)

流速と流量、断面積の関係性はこのような式になります。
10mの距離を14mに伸ばしたいので、仕様書にある管半径9cmの時の流速が1.4倍となる管半径rを計算します。

V = Q ÷ ( 9 × 9 × π )

V × 1.4 = Q ÷ ( r × r × π )

r = 7.61

よって、直径約15cm以下にすれば良いことが分かりました。

配管の材質

管の材質を金属にすると距離が稼げますが、配管には軽くて取扱が容易で金属管よりも安価なライト管(VU管よりも薄いLP管)が最有力候補です。
ライト管は塩ビ管のJIS規格外の仕様なのでホームセンターなどでの入手が難しく、直径や継手などの選択肢も少ないのが欠点ですが配管施工はとても楽です。
手に入らない場合は塩ビ管を使う予定でしたが、ライト管入手の目途が立ちましたので幸運でした。
ライト管には直径15cmのほか、12cmや10cmもありました。
籾摺り機自体が古く籾殻排出時の圧力が高くなり過ぎると色々と不都合が生じそうなので15cmの選択です。

設置

4mのライト管3本とL字接手2本、それ以外に準備したのは固定用の針金とガムテープ、ビニール紐、脚立、粉塵対策として排出口をカバーするブルーシートとブルーシートを固定するための杭です。

ライト管3本のうち1本からL字の接手用に数十センチ切り出した後、軒下に針金で懸架します。
田への排出口にあたる管は必要時のみ配置するので脚立を一時的な支柱にして設置しました。
管同士の接合は非接着です。
接合部は僅か2か所なので気密性は大きく損なわれないと判断し、ガムテープで簡単に漏洩予防するだけにしました。
ダメなら接着して強固に接合する予定でしたが、もみ殻なしでの動作確認でも問題なく排出口から十分な風量が出ていましたので後は実際に稼働させて判断することにしました。
ナイロン管とライト管は抜けないようにビニール紐とガムテープでしっかり固定しましたが、これも作業後は簡単に取り外せます。

配管の位置などは予め計画していましたので、管の切り出しを含め作業時間は約2時間ほどです。

実働

設置から数日後の実働でも無事排出されました。
ただ、試運転時は十分な風量と判断していましたが、排出口からの飛距離はやや心もとない気がします。
配管長の延伸による抵抗増や、籾摺り機から新配管までの数メートルをナイロンホースにしていること、籾摺り機の経年劣化などが飛距離の低下原因と思われますので、改善できそうなところは追々考えます。
とりあえず、これでトースが楽になります。

用語解説

  • 籾摺り機:籾から籾殻を取り除き玄米にする機械。唐箕で行う選別も同時に行います。
  • 唐箕(とうみ):籾殻と玄米とを選別する機械。籾摺り機と一体化していますのでお米では使われません。
  • トース:籾摺り機で脱稃し選別する作業のこと。口語使用が主なのでこの表記が正しいのかどうか。漢字表記の有無、ひらがな表記が正しいのか、カタカナ表記が正しいのか、語源もよくわからないです。かつて籾摺りに使用されていた土臼(どうす)が訛ったのか、唐臼(からうす)が読み替えされたのか、選別を行う唐箕(とうみ)と臼とを組み合わせて唐臼(とうす)としたのか、所説あるようです。